なぜトップエリートサラリーマンに東大卒と並び早慶文系卒が多いのか。その必然的な構図を気鋭の教育投資ジャーナリストが暴露「東大卒の学歴は民間就活では万能ではない」
なぜ多くの家庭は子供に大学進学させるのか。実態としては、より良い進路、つまり会社に就職するためだろう。そのためには、なるべく偏差値の高い大学に進学する方が選択肢が広がる。そう考える家庭が多数派ではないか。
しかし、必ずしもそうではないという。教育投資ジャーナリストの戦記氏は「民間就活においては東大卒と早慶卒は同じプール内におり、結果としてそこまで差はない」と主張する。なぜなのか。同氏が暴くーー。
みんかぶプレミアム特集「学歴社会の功罪 AI時代に学歴は無意味なのか」第9回
東大と早慶は就活で同じプール説
教育投資ジャーナリストの戦記(@SenkiWork)と申します。
2026年の夏も終わり、2027年の大学受験に向けて最後の努力を積み重ねている高校3年生も多いかと思います。
首都圏での中学受験経由からの大学受験だとすると、遅くとも小4から本格的な勉強を開始していますので、小4から高3までの合計9年間、全力で勉強を駆け抜けてきた人も多いはずです。そして、この9年間という年齢は、18歳という人生の半分を勉強に捧げてきたことを意味します。
現在、東大や医学部に挑戦をするのは、18歳という人生の半分を勉強に捧げてきた人たちが主体なのです。そして医学部(医師免許)や弁護士・公認会計士といった専門家、官庁、あるいは大学の研究者を目指さないのならば、最後は皆が新卒民間就職に挑むことになります。
今回の記事では、頑張って勉強をしてきたのに、東大卒と早慶では民間就職の差はさほど大きくないという不都合な真実に焦点を当ててみたいと考えます。
東京一科(東大・京大・一橋大・東京科学大)と早慶の人数と偏差値の違い
最初に、前提となる「人数」と「偏差値」を確認しておきます。
(1) 1学年の人数:早慶は東京一科の約1.8倍
東京一科4大学の1学年あたりの定員は次のとおりです。
- 東京大学:約3,060人(前期日程2,960人+学校推薦型選抜 約100人)
- 京都大学:2,852人
- 一橋大学:955人
- 東京科学大学:1,460人(2026年度 学士課程入学者数)
- 合計:約8,300人
一方、早慶は次のとおりです。
- 早稲田大学:約8,940人(13学部の入学定員の合計)
- 慶應義塾大学:6,402人(2026年度 学部入学定員)
- 合計:約15,300人
(出典:東京大学の科類別定員は東大受験の定石「東大の定員/募集人数」、京都大学・一橋大学・早稲田大学は河合塾Kei-Net大学検索システム「学部・学科」、東京科学大学は同大学「2026年度東京科学大学入学式を挙行」、慶應義塾大学は同大学「学部入学定員・入学者数」〔2026年5月1日現在〕)
早慶はわずか2大学で、東京一科4大学の約1.8倍の学生を毎年社会に送り出しているのです。
さらに注目すべきは「文理の構成」です。東京一科は理系の比率が高い大学群です。東京科学大学は理工系と医歯系の大学で、東大も理科一類だけで1,108人の定員があります。京都大学も工学部だけで975人の定員です(出典:同上)。そして理系の学部生は、その多くが大学院に進学します。東大の案内サイトも、理系学部では「大多数が大学院進学の道を選択しています」と説明しています(出典:東京大学「キミの東大」各学部卒業後の進路2025)。
では、学部卒で民間企業に就職する中心層である「文系」はどうでしょうか。東大の文科一類・二類・三類の前期定員は合計1,223人(401人+353人+469人)です。これに一橋大学の955人を足しても、約2,200人にすぎません。それに対して、早稲田大学の定員約8,940人から理工系3学部(基幹理工595人・創造理工595人・先進理工540人、計1,730人)を除くと、早稲田だけで文系学部の定員は約7,200人になります(出典:河合塾Kei-Net)。
東京の最難関文系の学生数は、早稲田1校だけで東大文科と一橋の合計の3倍を超えるわけです。これが、後の章で見る就職データを読み解くうえで最も重要な前提となります。
偏差値は、数字の上では大差ない
次に、河合塾の2027年度入試の予想ボーダー偏差値(合格可能性50%のライン)を見てみましょう。
【東京大学】
文科一〜三類 67.5 / 理科一・二類 67.5 / 理科三類 72.5
【京都大学】
法 67.5 / 文 67.5 / 工(多くの学科) 65.0 / 医(医) 70.0
【一橋大学】
社会・ソーシャルデータサイエンス 67.5 / 法・経済・商 65.0(いずれも前期)
【東京科学大学】
理工系6学院 65.0 / 医(医) 70.0
【慶應義塾大学】
経済・総合政策・環境情報 70.0 / 法(法律)・商(B方式) 67.5 / 医 72.5
【早稲田大学】
政治経済(経済学科)・社会科学 70.0 / 政治経済(政治学科・国際政治経済学科)・法・商・文(一般) 67.5
(出典:河合塾Kei-Net大学検索システム「偏差値(ボーダーライン)」2027年度入試。東京大学・京都大学・一橋大学・東京科学大学・慶應義塾大学・早稲田大学の各ページ)
偏差値の数字だけを見ると、東京一科と早慶はほぼ同じ水準です。尚、偏差値も上位になると1の違いが大きいのですが、とはいっても全体感で見るとあまり変わらないのが現実です。
ただし、この数字は単純には比べられません。国立大学の偏差値は二次試験のもので、これとは別に共通テストで高得点が求められます。東大文科の共通テストのボーダー得点率は85〜86%、一橋大学の前期も83〜85%です(出典:同上)。つまり国立の最難関は「5教科7科目で高得点を取り、そのうえで二次試験でも勝つ」ことが求められます。一方、私大の一般選抜の多くは3教科が中心です。
ここに、冒頭で述べた「9年間の勉強」の中身の違いがあります。東大を目指す受験生は、苦手科目も含めて全教科を高い水準で仕上げなければなりません。早慶の私立文系を目指す受験生は、英語・国語・社会(または数学)に絞って勉強できます。同じ偏差値70でも、そこに至るまでの時間の使い方はまったく異なるのです。
そして、この「時間の使い方」の違いは、大学入学後の4年間にも影響していきます。この点は後ほど詳しく扱います。
東京一科と早慶の就職ランキング実績
次に、東京一科と早慶の就職力を、公表されている就職ランキングで比べてみます。
(1) 有名企業400社実就職率ランキング(2026年)
就職力の指標としてよく使われるのが、大学通信の「有名企業400社実就職率ランキング」です。日経平均の採用銘柄、会社規模、知名度、大学生の人気企業ランキングなどを参考に選んだ400社への就職者数を、「卒業生数-大学院進学者数」で割って実就職率を出しています。
2026年のランキング(2026年7月26日集計、回答552大学)では、東京一科と早慶の順位は次のとおりでした。
【2026年 有名企業400社実就職率ランキング】
・1位 豊田工業大 73.1%
・2位 名古屋工業大 56.3%
・3位 一橋大学 54.7%
・4位 慶應義塾大学 48.7%
・5位 東京科学大学 47.3%
・9位 早稲田大学 41.0%
(出典:リセマム「有名企業400社実就職率ランキング…慶應4位・早大9位」2026年7月29日、大学通信オンライン「2026年有名企業400社実就職率ランキング」。)
東京大学と京都大学は調査に回答していないため、ランキングに入っていません。なお、東洋経済オンラインが2026年6月に紹介したトップ50のランキングでは、京都大学が22位、東京大学が27位でした。記事はその理由として「一般企業以外の進路選択をする学生が多い」ことを挙げています(出典:東洋経済オンライン「〈大学ランキング〉最新版『有名400社への就職に強い大学』トップ50」2026年6月26日)。
率だけを見れば、一橋大学がトップクラスで、慶應と東京科学大学がほぼ並び、早稲田がやや遅れている、という構図です。