インチキ広告スシロー、焼身自殺のくら…大阪発祥・回転寿司チェーンの限界「顧客第一の認識薄く」

 回転ずし発祥の地、大阪。その大阪に拠点を構える業界トップ、スシローで不祥事が相次いでいる。コロナ禍にあっても売り上げを伸ばし、外食産業の「勝ち組」と言われた回転ずし業界に何が起こっているのか。「みんかぶプレミアム:特集『大阪沈没~名古屋に完敗、福岡に抜かれる』」第6回は、業界事情に精通した経済記者が、ルール無視の熾烈(しれつ)な競争が続く回転ずし業界の内情を伝える。

目次

曲がり角を迎えた外食「勝ち組」の大手回転ずしチェーン

 新型コロナウイルスの感染拡大で外食産業が苦戦する中、「低価格戦略」や「店員と利用客の非接触」の成功によって、回転ずし大手は好業績をたたき出し、外食の「勝ち組」といわれてきた。しかし最近、業界最大手で大阪発祥の「スシロー」が、在庫のないメニューをPRする「おとり広告」で行政から処分されるなど、コーポレートガバナンス(企業統治)が疑問視される不祥事が相次いでいる。さらには原材料価格の高騰で、スシローと、同じく大阪発祥の「くら寿司」が、創業以来の「100円皿」を捨てて値上げせざるをえず、低価格路線も揺らぎ始めた。外食の「勝ち組」の地位は危なくなっている。

 「売り上げを増やしたいという思いが、会社の価値観としてあった」「お客さま第一の認識が薄くなったことが一番の問題だ」

 スシローを展開するFOOD & LIFE COMPANIESの水留浩一社長は11月4日、東京都内で記者団の取材に対し、自社の不祥事について、こう語った。

 だが、消費者をだますような悪質な行為がまかり通る、組織上の本質的な課題には十分触れておらず、到底、消費者の納得を得られる説明ではなかった。

 実は水留社長は、日本航空副社長やアパレル大手ワールドの専務執行役員を歴任してきた「プロ経営者」でもある。にもかかわらず、悪質な不祥事を許し、業績悪化を招いたのだから、「プロ経営者失格」のそしりを受けてもしかたがない。

 この日発表された同社の2022年9月期連結決算は、最終利益が前期比72.6%減の36億円。過去最高をたたき出した前期から一転しての業績悪化だった。円安などによる食材高騰の影響に加え、不祥事で消費者の足が遠のいたことが大きな原因だ。不祥事で払った「代償」は小さくなかった。

繰り返される「おとり広告」にSNSも大炎上

 ここで改めて、スシローの不祥事を振り返っておこう。おとり広告で直接の処分の対象となったのは、スシローを運営する事業会社「あきんどスシロー」(大阪府吹田市)だ。

 同社は、21年9~12月の期間限定で販売していた「濃厚うに包み」(税込み110円)「新物うに 鮨(す)し人流3種盛り」(税込み528円)「冬の味覚!豪華かにづくし」(税込み858円)の3商品についてキャンペーンを展開し、ホームページやテレビCMで大々的に宣伝していた。

 しかし、数日で品切れになった商品もあり、全国約600店舗のうち約9割で提供できなくなった。一度も提供しなかった店もあった。利用客が来店しても大半の店で食べることができない状況になったにもかかわらず、同社は宣伝を継続。これについて、消費者庁は今年6月、実際にない商品を使って客を集め、別の商品を買わせる「おとり広告」だったと認定し、景品表示法違反(おとり広告)で、再発防止を命じる措置命令を出した。

 あきんどスシローがひどかったのは、この後、性懲りもなく不祥事を繰り返したことだ。

 7月13日には、この日から28日まで行う予定だった生ビール半額のキャンペーンに関する告知物を、一部の店でキャンペーン開始前から誤って張り出していたと発表し謝罪。本来はキャンペーンが始まる13日に店頭に張り出すはずだったが、複数の店で、13日より前に張り出していた。

 告知物にはキャンペーンのスタート日は書かれておらず、「すでにキャンペーンが始まっている」と誤認し、注文した客も多かった。誤認した客は、食後、会計する際に、店側から「まだキャンペーンは始まっていない」「告知物は予告にすぎない」という主旨の説明をされたとツイッターに投稿し、炎上。会社へも苦情が寄せられた。謝罪したあきんどスシローは、レシートと引き替えに差額を返金することになった。

低価格競争のしわ寄せは経営者ではなく労働者に

 曲がりになりにもスシローは回転ずし最大手。あきんどスシローの親会社FOOD & LIFE COMPANIESは東証プライム企業だ。なぜ、利用客をだますような、ありえない悪質な不祥事が相次いだのか。

 業界関係者は「業界の急成長に、ガバナンスやコンプライアンス(法令順守)の意識、体制作りが追いついていなかったのだろう」と指摘する。回転ずし同士、あるいはほかの外食業態との客の奪い合いは熾烈で、最大手のスシローとはいえ安閑とはしていられない。「どんな手を使ってでも、まずは客を集めなければ」という意識が働いたとしても、おかしくはない。

 スシローには、労働上の問題が多いとも指摘される。10月27日、スシローの東京と埼玉の店でアルバイトとして働く男子大学生2人が、回転ずし業界で働く人が加入するための労働組合「回転寿司ユニオン」を立ち上げると発表した。バックアップするのは、パートやアルバイトとして飲食店で働く人が加入する労働組合「飲食店ユニオン」だ。

 男子大学生らは、スシローが手洗いといった準備の時間を勤務時間に含めていないなどと主張。これらの時間に対して払われるはずだった未払い賃金を、全ての従業員へ支払うよう要求している。また、飲食店ユニオンは、回転ずし業界は激しい低価格競争にさらされており、しわ寄せが労働者の賃金に及んでいると批判した。

ついに姿を消した「100円皿」…回転寿司は消費者の信頼を取り戻すことができるのか

 ほかの回転ずし大手でも、不祥事は頻発している。同じく大阪発祥で上場企業のくら寿司では、現役店長が今年4月、上司である「スーパーバイザー」からのパワハラを苦にして焼身自殺したと、一部週刊誌に報じられた。

 また関西発祥ではないが、回転ずし大手の現役社長が、産業スパイまがいの行為をしていたとして9月に逮捕された事案もあった。

 不正競争防止法違反(営業秘密領得)容疑などで逮捕されたのは、「かっぱ寿司」を運営する「カッパ・クリエイト」(横浜市)の田辺公己前社長(逮捕時は社長)だ。田辺前社長はもともと、ライバルである「はま寿司」(東京)の役員で、20年11月にカッパ社へ転職し、21年2月、社長に就いた。

 逮捕容疑は、20年9月から12月にかけ、はま寿司の商品の原価や仕入れ先などの内部データを不正に取得したことだ。田辺前社長はすでに、はま寿司の親会社であるゼンショーホールディングスに対し、はま寿司を退職する意向を伝えていた。しかし、元部下に命じ、不正に外部のサーバーへデータをアップロードさせた。データはUSBメモリにコピーされて田辺前社長に渡され、カッパ社にも流れた。法人としてのカッパ社も責任を問われ、書類送検された。

 田辺前社長が犯罪行為に手を染めた背景には、2010年ごろまでは業界トップだったにもかかわらず、その後、スシロー、くら寿司、はま寿司に追い抜かれ、業界4位へ転落したかっぱ寿司の焦りがあったとみられる。

 同時に、やはり「ライバルとの競争に勝つためには、犯罪行為に手を染め情報を入手してもかまわない」という、「仁義なき戦い」も辞さない回転ずし業界のコンプライアンスのなさ、ガバナンス不全がうかがい知れる。このような姿勢を改め、信頼回復に真剣に取り組まない限り、回転ずし業界は、やがて消費者から、そっぽを向かれることになるだろう。

 一方、円安やウクライナ情勢の緊迫化による原材料高騰は、回転ずし業界の武器である「低価格戦略」を揺るがしている。大阪発祥のスシローは今年10月1日から、にぎりずしなどのメニューを9~30円値上げした。これによって、1984年の創業以来、スシローの低価格を象徴してきた「1皿=税抜き100円」の「100円皿」が姿を消した。くら寿司もやはり、10月1日から値上げに踏み切り、77年の創業以来の「100円皿」を撤廃した。

 物価が高騰しているうえに、賃金が上がらず、消費者の財布のひもは固くなっている。そんな消費者に、値上げを上まわる高い付加価値を提供し、来店し続けてもらうことはできるのか。同時に、不祥事で損なった信頼を取り戻すことはできるのか。スシロー、くら寿司の大阪発祥の2社は、ともに回転ずし業界を牽引する大手であるだけに、その取り組みの成否は、業界全体の先行きを左右することになる。

この記事の著者
氷室研

経済ジャーナリスト。取材歴25年超、経済、政治事情に精通したベテラン記者。ニュースを多面的に掘り下げ、関係者に肉薄することによって大手メディアでは取り上げない、取り上げることができない裏事情や独自のオピニオンを展開。

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