お金持ちは“2種類”にわけられる……伝統的なお金持ちの「財産を守る」不動産の持ち方とは

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 不動産事業プロデューサーの牧野知弘氏によれば、ひとくちに「富裕層」といっても、そこには自身の能力を生かして稼ぐ「フローリッチ」と、親の遺産を生かす「ストックリッチ」の2種類の人間がいるという。とりわけ後者のいわゆる“伝統的なお金持ち”が、財産を守るためになにをしているのかについて、牧野氏が語る。全3回中の2回目。

※本稿は牧野知弘著「不動産の教室 富裕層の視点が身につく25問」(大和書房)から抜粋、再構成したものです。

第1回:金利の上昇=タワマン投資の終わりの始まり?!ローン返済シミュレーションを考える

第3回:タワマンは短期で転売せよ!投資マネーが流れ込んでいるタワマンの落とし穴

目次

伝統的なお金持ちは新しいことになかなか手を出さない

 富裕層には2つのカテゴリーがあります。 

 起業して成功している人、医師や弁護士、コンサルタントといった特殊な能力で稼いでいる人など、フロー所得が多いお金持ちがいます。私はこの方々を「フローリッチ」と呼んでいます。 

 いっぽう、親の残した財産、株式や有価証券、金などの現物、不動産などを多く所有し、配当や利息、賃料収入などで生きている人がいます。 

 この方々の中にはフローで稼いだ後にリタイアされて、その間に築いた財産でお金持ちになっている人も含まれますが、私はこうした方々を「ストックリッチ」と呼んでいます。

 このカテゴリーの中で、伝統的なお金持ちともいえるのがストックリッチの方々です。 不動産アドバイザリー業務を仕事にしているとよくお目にかかるタイプのお金持ちです。

 彼らは、まず自身の財産を守るのに真剣です。そして警戒心がとても強く、新しいことにも容易に手を出したりしません。 

 彼らは日々、様々な営業を受けています。お金持ちはどこかからその名前があぶりだされ、何とか商売をしたいとたくらむ者が押しかけるのです。 不動産でいえば、物件を買ってほしい、投資をしてほしいという営業です。

不動産をすぐ売買するフローリッチ、売買しないストックリッチ

 ストックリッチにも悩みがあります。所有しているアパートに空室が多い。老朽化して修繕費用がかかる。テナントとトラブっている。などなど運用にまつわる悩みです。

 さらに彼にとっての大問題が相続です。

 多額の資産を無事、後代に引き継いでいきたい。相続が起こるとどのくらい税金がかかるのだろうか。

 特に現預金や有価証券をそれほど所持しておらず、複数の不動産を所有しているストックリッチの方にとっては、相続人が納税する際の納税資金をどうやって捻出するかが課題となります。 

 納税のために多くの不動産を手放すことは避けたいですし、いざとなったときに本当に不動産を売却することができるかも不安です。

 相続人との人間関係も課題となります。 

 親子関係がうまくいっているか、相続人である兄弟姉妹の互いの仲は良いのか。財産を誰にいくら相続させるか。特に不動産は金融資産のようにきれいに分割できるわけではないので、その取り扱いに悩みは尽きません。 

 フローリッチが比較的無頓着に儲かる金融商品、不動産であれば積極的に買い、儲けが確認されるとあっさりと売却するのに対して、ストックリッチは財産承継のためにどんな対策ができるかに投資目線があるのです。

土地は経年劣化しない

 では富裕層、その中でも主にストックリッチの投資スタイルをみてみましょう。

 ストックリッチの富裕層はすでにたくさんの資産を保有しているので、あまり頻々にこれを売り買いしようとはしません。 

 マンションは流通市場が整っていてどのエリアでも一定の相場がすでに形成されています。したがって、今自身が所有しているマンションの価値を把握しやすい不動産です。

 ところが、アパートになると相場はあるような、ないようなものですし、更地状態の土地については、公示地価や路線価はわかっても、実際のどの程度の金額(時価)で売却できるかはすぐにはわかりません。 

 ストックリッチの資産でとにかく多いのが土地です。また、土地の上に建設したアパートや賃貸マンションです。 

 彼らの多くはこれらの資産を売却して儲けよう、売却したおカネでよその土地を買おう、マンションを買おうという動機が希薄な傾向があります。

 彼らにとって不動産はいわばコレクションのようなものであり、おカネでもっているよりもとりあえず土地にして持っておこうという程度の考えしかありません。この考えの根底には「土地は劣化しない」という価値観が内在しています。

 この考え方は、プロである私から見ても、至極まっとうなものです。建物は壊せばなくなります。どんなに高級な車でも、壺でも壊してこの世からなくしてしまうことができます。

 ところが土地はどれほど引っ搔いても、削ってもなくなりません。そうした意味では土地という存在は永遠です。だからストックリッチは土地所有にこだわる傾向があります。 

 いっぽう建物は、経年劣化することが前提にあるので、会計上の費用として減価償却が認められるのです。 

 不動産をよく理解していない人の中で最近目立つのが、建物の価値を過大評価して、土地についてほとんど関心を示さないことです。 

 たとえばタワマンはその典型的な対象と言えましょう。 ストックリッチは資産形成としてのタワマン所有についてはあまり関心を示さないものです。 

 ほぼ永遠に所有していく大事な土地の上に、所詮は償却資産である建物、アパートやマンションを建設して、フローを賄っていくのが正統派ストックリッチの不動産投資なのです。

スマートなフローリッチが増えている

 土地をずっと所有していることの価値に重きを置くストックリッチに対して、フローリッチは、不動産でいえば即売買益が稼げるような投資を好む傾向があります。

 彼らは毎日、非常に忙しく働いている人が多いので、不動産の中長期的な利益に対して正しく判断するだけの勉強時間がありません。いっぽうで常に現代社会の中にどっぷりと浸かっていますので世の中の情報には敏感です。

 感性的に「あっ、これはいいね」と思い、判断する能力が研ぎ澄まされている面もおおいにあります。特に最近はただがむしゃらに働くだけではなく、仕事も遊びもそつなくこなすスマートなフローリッチが増えています。

 ホテル業界では最近こうした比較的若くて、バリバリ仕事をしながらも、自身の時間は大切にし、趣味などにも打ち込む新しいタイプの富裕層に着目しています。

 彼らは、おカネは十分にもっているものの、従来のお金持ちが好んでいたようなラグジュアリーなホテルを必ずしも使いません。

 ラフな格好でホテルにやってきて、空き時間を有効に使ってホテル内の施設を使いこなすだけでなく、外に出てトレッキングやサイクリングを楽しむ、湖に出てフィッシングを楽しむなど、しなやかに人生をエンジョイする人たちです。

 マリオットホテル傘下のモクシー、IHG傘下のインディゴ、ハイアット傘下のハイアットセントリック、ヒルトン傘下のLXR、ダブルツリーなどのブランドがこうした層をターゲットにしているといわれます。 

 

 

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この記事の著者
牧野知弘

不動産事業プロデューサー。東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現・みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て三井不動産勤務。J-REIT(不動産投資信託)執行役員、運用会社代表取締役を経て、2015年にオラガ総研株式会社の代表取締役に就任。ホテルなどの不動産事業プロデュースを展開している。著書に『なぜマンションは高騰しているのか』(祥伝社新書)など多数。

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