人との会話が苦手だった樺澤まどかが海外のシェアハウスで知った、他人との“ちょうどいい距離感”とは

 他人との適切な距離感を測るのは難しい。元吉本興業のマネージャーで、いまはロンドンに滞在する樺澤まどかさんは、「昔から他人との雑談が苦手だった」と話す。そんな樺澤さんは、海外でシェアハウスに住んだことで、自身の気持ちが変化していくのを感じたという。会話が苦手な女性が、海外で気づいたことについて語る。

 みんかぶプレミアム連載「樺澤まどかのロンドン卑屈日記」

目次

雑談に意味を見いだせなかった 

 他人とのちょうどいい距離感を測るのは難しい。

 私は昔から雑談が少し苦手だった。誰かがたわいもない話をしてきても、「それ話してどうするの?」と思ってしまうタイプで、今日あった小さな出来事や思ったことを共有する意味もよく分かっていなかった。

 いま振り返ると、当時の私は、会話を“情報交換”だと思っていた。だから、議論になる話や相談、必要な報告には意味を感じられても、それ以外の雑談には意味を見出せなかったのだ。

 家族とも今日あった出来事を共有する習慣はなかったので、家族がどんな友達と仲良かったのか、どんなことで悩んでいたのか全然知らないし、私自身も、自分の日常を家族に話した記憶があまりない。

 雑談が苦手だった理由は、単純に興味がなかっただけではなく、相手が何を求めているのか分からなかったからだと思う。共感してほしいのか、笑ってほしいのか、アドバイスがほしいのか。正解が分からなくて、少し怖かった。

「会話が怖い」私がシェアハウスを選んだ理由

 そんな私が、オーストラリアでのワーキングホリデーで、人生で初めてシェアハウスに住んだ。

 シェアハウスには色々なタイプがある。自分専用の一人部屋があってリビングルームやバス・トイレをシェアするパターンもあれば、他人と同じ部屋で暮らすルームシェアもある。家によって交流量もかなり違って、みんなでご飯を食べたり頻繁に会話したりする家もあれば、ほとんど顔を合わせないドライな家もある。

 私はせっかく海外で生活するなら、英語を学ぶだけじゃなく、現地の人たちと生活を共有してみたいと思っていたので、交流があるタイプのシェアハウスを探した。

 シェアハウス探しも思っていたより大変だった。日本の部屋探しみたいに、色々な家を見たうえで気に入った場所を自分で選べるものだと思っていたけれど、実際は自分が「住みたい」と言っても、オーナーや現住人にOKをもらえなければ住めない。

 特に、交流があるタイプのシェアハウスは「一緒に生活して心地よく過ごせるか」を見られていて、内見というより就活の面接に近いような、ジャッジされているような感覚があった。

 当時の私は英語もほとんど話せなかったので、内見の機会を得るだけでもやっとで、とにかく「住まわせてください」という気持ちで必死だった。

戸惑いの日常が少しずつ変化

 ただ、私はとても運が良かった。私の入居を唯一許可してくれたシェアハウスは、オーストラリア人、中国人、シンガポール人との4人暮らしで、常にリビングには人がいて、さらに月に一度くらいのペースで友達を呼んでホームパーティーをするような、交流がかなり活発な家だった。

 正直に言って、最初は戸惑った。挨拶の延長みたいな感じで、気軽に日々のことを聞いてくるからだ。

 朝リビングで会えば、

「今日何するの?」

帰宅したら、

「今日どうだった?」

 と聞かれる。

 最初の頃の私は、かなり混乱していた。

「なんでそんなに私の予定に興味あるの?」

「私が今日どうだったか聞いて、何の意味があるの?」

 と思っていた。

 でもシェアハウスでは、毎日のように

「今日どうだった?」

 と聞かれる。

 最初の頃は義務感みたいに緊張しながら答えていた。何を返せば正解なんだろう、何を言ったら有意義な会話になるだろうと考えながら会話していた。

 だけど逆にこちらが相手に今日の出来事を聞くと、びっくりするくらい些細なことを楽しそうに話してくれる。

スーパーであった小さい出来事。

仕事の愚痴。

今日食べたもの。

 本当に些細な話ばかりだったけれど、だからこそプレッシャーなく、なんでも話して良いんだと思えて、私もだんだん小さな出来事を話すことが楽しくなっていった。

 帰宅したら必ず誰かが「今日どうだった?」と聞いてくれる環境がだんだん心地よくなっていき、気づいた頃には自分から話すことも増えていた。

 会話って、“意味”のためだけにあるわけじゃないんだと、その時初めて知った気がする。

もっと自然体でいてもいい

 人と話すことが好きになったとはいえ、一人の時間が好きなのは今も変わらない。ずっと誰かと一緒にいたいわけではないし、放っておいてほしい時間もかなりある。でも逆に、誰も自分に興味がない環境も孤独すぎる。シドニーのシェアハウスのメンバーは、その距離感が本当に絶妙だった。同じ空間にいても、それぞれが勝手に好きなことをしている。

 無理に会話を続けるわけでもないけどたまに話しかけてくれて、つらそうにしていたら気にかけてくれる。必要以上には干渉しないけど、困った時にはちゃんと助けてくれる。

 その距離感が、私にはすごく居心地が良かった。

 そして、その心地よさには、自分が“外国人”であることも大きく関係していたと思う。私は日本にいると、人の目をかなり気にしてしまう。変に見られていないか、ちゃんとしているか、失礼じゃないか。仲の良い相手なら別だけど、日本語だと必要以上に空気を読もうとしてしまうことがある。

 でも海外では、そもそも私は“外国人”として見られているから、多少変な行動をしても文化が違っても、「まぁ外国人だしね」で流される。逆に相手に対しても、必要以上に期待しすぎなくて済んだ。日本人同士だったら気になっていたかもしれない言動も、「文化が違うし」と自然に受け流せた。

 もちろん、日本語みたいに細かいニュアンスが伝えられなくてもどかしい思いをしたこともあるし、自分の意見をうまく説明できずに困ったこともあった。

 でも、だからこそ完璧じゃなくていい感覚もあった。英語だと取り繕う余裕もないから、感情表現も少しストレートになる。だから日本にいる時より、少しだけ伸び伸びしていた気がする。

 そう思うと、逆になんで日本ではあんなに人の目を気にしていたのだろうと思う。海外では、外国人だからという理由で多少の失敗や違いを受け入れてもらえている気がするけど、それはただの思い込みで、本当はどの国で、どの言語で話していても、自分がそこまで肩肘を張る必要はなかったのかもしれないということだった。

 自分が思っているほど周りの人は私を見ていないし、人との関わりに完璧な正解もない。もっと気楽に話してもよかったし、もっと自然体でいてもよかったのかもしれない。

 いま思うと、私は人が嫌いだったわけじゃなく、人との“ちょうどいい距離感”を知らなかっただけなのかもしれない。

 海外のシェアハウスで生活した時間は、私にとって、他人と生活を共にしながら、自分がどんな環境だと自然体でいられるのかを知っていく時間だった。

 日本に帰っても、人との距離感に悩むことはきっとあると思う。それでも以前よりは、少しだけ気楽に人と話せる気がしている。

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この記事の著者
樺澤まどか

群馬県前橋市出身。早稲田大学先進理工学部を卒業後、同大学院基幹理工学研究科にてロボット研究や科学技術を用いたアート制作に取り組み、2019年修了。同年、吉本興業に入社。マネジャーとしてとろサーモン・かまいたちを担当する傍ら、同社のアイドルグループ「吉本坂46」としても活動。 2023年に退社後、ワーキングホリデー制度を利用してオーストラリアへ渡航。現在はYMSビザでイギリス・ロンドン在住。動画クリエイターとして海外生活や自身の挑戦を発信しながら、アパレルブランドのディレクションなど、ジャンルを横断したクリエイティブ活動を行っている。

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