資産形成の必要性は本当にある?時代背景や実践方法と合わせて解説

老後の不安を解消するためには、資産形成が必要と分かっていても、「投資初心者なので腰が重い」と感じている人もいるのではないでしょうか?資産形成は将来のライフイベントに向けてお金を準備することで、投資だけを指すというわけではありません。今後、公的年金を取り巻く環境はさらに悪化し、ますます老後資金の準備が難しくなってしまうことも考えられます。この記事では、なぜ資産形成が必要なのか、具体的にどのように始めたら良いかが分かるように解説します。
目次
資産形成とは?

「資産形成」とは、将来的な老後や子供の教育費といった大きなお金のかかるライフイベントに向けて、準備する行為全般のことを表します。つまり投資に限らず、節約でも、節税でも、副業でも、資産形成に含まれます。
金融庁では以下のように、投資を定義しています。
「資産形成」には、「貯蓄」と「投資」の2つの方法があります。様々な考え方がありますが、一般的には、「貯蓄」とはお金を蓄えることで、銀行の預金などがこれに当たります。一方、「投資」とは利益を見込んでお金を出すことで、株式や投資信託などの購入がこの「投資」に当たります。
(金融庁HP「投資の基本」より引用)
資産形成の必要性が高まっている理由・背景

20~50代の年代別に、「資産形成をしていますか?」と質問したところ、「はい」と答えた割合は、全体で56.9%でした。ここで注目すべきは、どこか特定の年代の割合が高いということではなく、質問した全ての年代の半数以上が、「はい」と回答している点です。ではなぜ若い世代が、こうした社会保障の先細りへ危機感を持っているのでしょうか?その理由を以下、3つ紹介します。

(出典:みずほ銀行ホームページ)
老後の資金不足が深刻化している

厚生労働省の「令和2年簡易生命表の概況」によると、日本人の平均寿命は延び続けています。
和暦 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
令和2年 | 81.64歳 | 87.74歳 |
平成27年 | 80.75歳 | 86.99歳 |
平成22年 | 79.55歳 | 86.30歳 |
すでに現時点においても、一般的な無職高齢者世帯では、公的年金だけで老後の標準的な生活ができず、貯蓄を取り崩して生活するケースが多いといわれています。そのため、このまま平均寿命が延びれば、老後に用意すべき資金は、さらに多くなっていくでしょう。
また、同じく厚生労働省の「令和2年度版厚生労働白書」によると、標準的な年金受給世帯の年金額(夫婦の基礎年金+夫の厚生年金)は、令和2年度で「220,724円」です。平成27年度は「221,507円」、平成22年は「232,591円」なので、年金額は、年々減少傾向にあることが分かります。このまま年金額が減少し続ければ、さらに用意すべき老後資金は多くなります。
このように平均寿命が延びていることと、公的年金が減少傾向にあるという2つの側面から、ますます老後資金を効率的に準備する必要性が高まっているのです。
雇用・給与に対する昔の常識が通用しなくなってきた
雇用や給与面においても、着実に変化が起こりつつあります。全労連の「実質賃金指数の推移の国際比較」によると、先進国の給与所得者の平均給与額が上昇傾向にあるのに対し、日本だけが右肩下がりとなっています。

また、老後資金として見込める退職金についても、かつては大卒で3,000万円以上支払われていましたが、近年は2,000万円を切っている状況です。「長年、同じ企業で勤めると給料が上がり続け、定年退職で大きな退職金を受け取った後は、余生を楽しみながら過ごす」といった常識は、すでに失われてしまっているのです。

出典:金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」
ここまで解説してきたように、老後の生活資金の準備は困難を極めるなか、さらに追い打ちをかけるように日本の銀行は超低金利が続いており、預金でお金を増やすことは、ほとんど期待できません。まさに、こうした現実に直面している若い世代が老後に不安を感じ、早めに資産形成を始めるのは、むしろ自然な流れであるといえるでしょう。
インフレ(物価上昇)がじわじわ進んでいる

物価が上昇し続けることを「インフレーション(以下、インフレ)」といいます。日本にいると、物価上昇しているという感覚はあまりないかもしれませんが、以下のように長期間で見ると、日本でも身近な場面で物価が確実に上昇しているのです。
具体的な商品 | 現在 |
---|---|
雑誌:「少年ジャンプ」 昭和43年(1968年)は1冊90円 | 300円 |
缶ジュース 昭和58年(1983年)は1本100円 | 130円 |
タクシー初乗り 昭和52年(1977年)は330円 | 380~410円(東京の場合) |
ビールジョッキ一杯(500ml)昭和40年(1965年)は155円 | 480~580円 |
参照データ:日本銀行の調査・研究「基調的なインフレ率を捕捉するための指標」
例えば、世の中の物価が全体で2%上昇していると、何もしなければ自分のお金の価値は、2%分相対的に下がります。インフレから自分のお金を守るためには、預金だけではなく、投資でお金を増やしていくという発想が必要なのです。
資産形成の目標金額はいくら?

資産形成は、さまざまなライフイベントに対して備えることなので、資産形成を行動に移す前に、まずはそれぞれどれくらいお金がかかるのかを理解しておきましょう。
ライフイベント | 必要資金の目安 |
---|---|
結婚 | 結納・婚約~新婚旅行合計で約487万円うち、ご祝儀が約224万、自己負担額は約263万円 |
出産・育児 | 約40~50万円※1 |
マイホーム・マイカー購入 |
・マイホーム(ローン利息含まず)3,400万~5,100万円 ・マイカー(ローン金利含まず)165万~700万円 |
教育資金(幼稚園から大学卒業まで) | 約1,000万~2,000万円※2 |
介護費用 | 約494万円※3 |
老後生活資金 | 約2,000万~3,000万円 |
※1 出産・育児費用については、全国銀行協会の「Q. 貯蓄がなく、出産費用が足りるかどうか不安です」を参考にしています
※2 教育費については、幼稚園から高等学校までの文部科学省が発表している「平成30年度子供の学習費調査」の結果を参考に、大学の費用については、生命保険文化センターの「ライフイベントから見る生活設計」を参考にしています
※3 介護費用については、生命保険文化センターの「介護にはどれくらいの年数・費用がかかる?」を参考にしています
マイホーム・マイカー購入
マイホームやマイカー取得費用も、大きなお金がかかるライフイベントの1つです。それぞれのモデルケースについて、紹介します。
【マイホーム費用(返済期間35年)】
購入費用 | 金利1.59%全期間で利用した場合の総返済額 | 毎月の返済額 | |
---|---|---|---|
安め | 約3,400万円 | 約4,435万円 | 約10.5万円 |
普通 | 約4,300万円 | 約5,609万円 | 約13.3万円 |
高め | 約5,100万円 | 約6,653万円 | 約15.8万円 |
【マイカー費用(返済期間10年)】
購入費用 | 金利2.8%全期間で利用した場合の総返済額 | 毎月の返済額 | |
---|---|---|---|
安め | 約165万円 | 約189万円 | 約1.5万円 |
普通 | 約300万円 | 約344万円 | 約2.8万円 |
高め | 約700万円 | 約803万円 | 約6.6万円 |
教育資金
教育費は進学先が国公立、私立で、その額に大きく差が出ます。また自宅から通うのか、一人暮らしをするのかでも変わってきます。以下にまとめたので、参考にしてください。
【教育費の目安】
国公立 | 私立 | |
---|---|---|
幼稚園(年間) | 22万3,647円 | 52万7,916円 |
小学校(年間) | 32万1,281円 | 159万8,691円 |
中学校(年間) | 48万8,397円 | 140万6,433円 |
高等学校(年間) | 45万7,380円 | 96万9,911円 |
大学(自宅)4年間合計 | 約528万円 | 688万円 |
大学(下宿)4年間 | 約826万円 | 約978万円 |
上記金額をもとに、いくつかのモデルケースを見てみましょう。
進路 |
幼稚園から大学卒業まで、 子供一人当たりにかかる教育費の目安 |
---|---|
全て国公立(大学は自宅から通い) | 約1,071万円 |
幼稚園から中学まで公立、 高等学校から私立(大学は自宅から通い) |
約1,385万円 |
全て私立(大学は自宅から通い) | 約2,518万円 |
介護費用
生命保険文化センターの調査によると、介護期間の平均は「54.5カ月」で、介護費用のうち、住宅改造、介護用ベッド購入費などの一時的な費用の合計は、平均で「69万円」、月々の自己負担額は、平均で「7.8万円」となっています。
これらをふまえて、介護にかかる平均的な金額を計算してみると、「月々の自己負担平均7.8万円×介護期間の平均54.5+一時金69万円=約494万円」となり、用意すべき介護費用は、「約494万円」という計算になります。
老後生活資金
生命保険文化センターの調べによると、夫婦2人で老後生活を送るために必要な最低日常生活費は、「22.1万円」です。前述の厚生労働省「令和2年度版厚生労働白書」の統計によると、標準的な年金受給世帯の年金額(夫婦の基礎年金+夫の厚生年金)は、令和2年度で「220,724円」であり、一般的には、公的年金だけで必要最低限の生活を「なんとか」送れる計算となります。しかしこれでは、定年退職後、一切ゆとりのない生活を送り続けることになります。
同じく生命保険文化センターの調べでは、ゆとりある生活を送るためには毎月夫婦で「36.1万円」が必要といった統計があります。これを基にすると、毎月の年金額「約22万円」では、14.1万円ほど不足します。
それでは、この14.1万円の不足が生じる期間がどれくらいあるかを考えてみましょう。
厚生労働省の「簡易生命表の概況」によると、平均寿命は、男性が「81.64歳」、女性が「87.74歳」です。男性の平均寿命を参考にして、65歳で定年退職したとすると、定年退職後は「約17年間」となります。したがって、ゆとりある生活を老後ずっと送るためには、「14.1万円×12カ月×17年=約2,800万円」が必要であるという計算になります。
定年退職後、常にゆとりある生活を送る必要はないとしても、やはり老後は、公的年金以外に「2,000万~3,000万円」程度は用意しておいた方が良いということが分かります。
これだけの金額を用意するためには、預貯金の金利だけでは難しいでしょう。大きな金額を用意するためには、資産形成のうち、投資を活用しながら時間をかけてお金を増やしていくことが最も効率的です。投資は、時間をかけた方が資産が増えやすいので、必要性を感じたら先延ばしにせず「今すぐ」取り掛かりましょう。
初心者でもできる資産形成の方法

老後生活資金として資産形成を始めたいものの、初心者は何から始めれば良いのか分からないかもしれません。ここでは、代表的な資産形成の方法を紹介します。
つみたてNISAの活用
「つみたてNISA」は、個人投資家の投資を後押しする制度として誕生した制度で、投資の分配金や売買益などで収益が発生したとしても、収益に対しての税金がかかりません。通常の投資では、投資で収益が出れば、収益に対して20.315%の税金がかかります。非課税となるのは、年間投資額40万円までで、20年間継続することができます。そのため、合計の非課税枠は800万円となり、非常に大きな金額が非課税の恩恵を受けられます。
またつみたてNISAは、非課税期間が20年と長いため、老後資産などの長期的に時間をかけてお金を増やす目的の運用に向いています。対応している商品も、金融庁の基準を満たした比較的安全な商品だけで構成されているため、投資初心者でも取り組みやすい資産形成方法の1つです。
投資信託の積立
投資は、1つの銘柄だけではなく、値動きの特長が異なる銘柄に分けて投資する「分散投資」という方法を利用すると、リスクを抑えて運用できます。ただ、投資初心者がたくさんの銘柄に投資するのは、なかなか難しいかもしれません。
投資信託を購入すると、投資信託を運用しているファンドマネージャーという投資のプロが、そのお金を使って代わりに分散投資の手法を用い、リスクを抑えて運用してくれます。また運用の結果、利益が出れば、分配金が還元されます(分配金を還元せず、再投資するものもあります)。
さらに投資は、毎月一定額を定期的に継続購入する「積立投資」を活用すると、リスクを抑えて運用することができます。プロのファンドマネージャーの分散投資に加え、積立投資を組み合わせれば、リスクを抑えつつ、安定したリターンを得られる可能性がさらに高まります。
ロボアドバイザーの活用
投資信託が初心者向けの商品であるということは理解したとしても、投資初心者は、数ある投資信託の中からどうやって自分なりの商品を選んで良いか分からないかもしれません。そんなときに活躍するのが、「ロボアドバイザー」です。
ロボアドバイザーは、自分の投資経験や年齢、運用期間、目標額、また「積極的に運用したい」「元本割れはしたくない」など投資の考え方といった項目を入力すると、おすすめの投資信託を紹介してくれます。投資信託単品でも、十分安心して運用をお任せできますが、ロボアドバイザーは、さらに投資信託を組み合わせ、よりリスクを抑えてニーズにあった運用方法を提案してくれます。金融機関が無料で提供していたり、アプリで提供していたり、気軽に利用できるものもあるので、活用してみましょう。
先取り貯金
人間というものは、「貯金をしよう」と思っていても、つい誘惑にかられて無駄遣いをしてしまいがちな生き物です。これは、自分の中で貯金の仕組みが確立していないためです。「先取り貯金」とは、貯金の考え方を以下のように切り替えることをいいます。
X 収入-支出=貯金
↓
〇 収入-貯蓄=自由に使えるお金
つまり収入から定期積立預貯金などで、まずは毎月の貯蓄目標額を引き落とし、残ったお金を自由に使えるお金にするというものです。これは、「収入の中からお金を使い、残ったお金を貯金する」という通常の発想とは、逆の発想です。固定費の削減と同様、貯金においても、まずは収入から強制的に引き落とす先取り貯金を活用し、それを日常化してしまいましょう。
こまめな節約
こまめな節約も、資産形成の1つ。さまざまな方法がありますが、ここでは3つ紹介します。
1つ目は、定価で商品を販売されていることの多いコンビニエンスストアや自動販売機で物を買わないことです。スーパーマーケットなどの特売を利用すれば、同じ商品でも割引価格で購入することができます。
2つ目は、マイボトルを持ち歩くことです。お勤めの人などは、つい職場の自動販売機やコンビニエンスストアのコーヒーなどを購入してしまいがちなのではないでしょうか?1回あたりの購入金額は大した金額ではありませんが、毎日100円ずつ購入すれば、年間2万~3万円くらいの浪費になっているかもしれません。マイボトルを持ち歩き、飲料などを安易に買わないことを心掛けましょう。
3つ目は、固定費の見直しです。上記の2つは、日々の努力や心掛けが必要ですが、ガス代、水道代、電気代、ネット回線、生命保険、自動車保険など、毎月定期的に一定額払わなければいけない支出(固定費)を見直せば、一度の努力で以後、継続的な節約につながっていきます。
日々の心掛けによる節約と、固定費の削減を組み合わせれば、効果はさらにアップします。
まとめ
企業の給料が上がりにくく、さらに低金利といった環境によって、老後資金を作ることが、年々難しくなりつつあります。また、公的年金額や退職金も減少傾向にあり、用意すべき老後資金の金額も、かつてより大きくなっています。このような社会情勢の中、豊かな老後を過ごせるだけの資金を用意するためには、資産形成の方法の1つである投資を活用するのが、もっとも効率的な方法です。
老後の準備に早めに取り掛かることで、漠然とした不安を抱えることなく、日々安心して過ごすことができるようになります。ただ、資産形成には、たくさんの方法があるうえ、考え方もさまざま。「他の人はどうしているのだろう」と気になる人は、以下の記事もご参照ください。
「30代・40代におすすめの資産形成は?ライフステージに合った方法をわかりやすく解説」
「資産運用とは?初心者にもおすすめの投資方法や失敗しない選び方を紹介」
三菱UFJ銀行から、資産形成の総合的なサポートを目的としたサービス「Money Canvas」の提供が開始されました。
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