世界最強の軍事力を持つアメリカが「覇権国家」でなくなりつつある理由……世界に覇権国家は必要なのか
世界最大級の軍事力と経済力を持つアメリカ。しかし、東京大学公共政策大学院教授で地経学研究所長の鈴木一人氏は、「アメリカは『覇権国家』らしさを失いつつある」と指摘する。“覇権国家”の現在地と、国際社会における覇権国家の必要性について、鈴木氏が解説する。
みんかぶプレミアム連載「鈴木一人 地政学×経済安全保障=地経学」
「軍事力世界一」=「覇権国家」ではない
多くの人は、現在の世界を「アメリカ一強」と認識していると思います。しかし、アメリカが覇権国家かと言われると、覇権国家らしさをどんどん失いつつあることも事実です。
もちろん、軍艦や航空機の数、防衛予算など数字だけを見れば、アメリカの軍事力はいまも圧倒的です。他方で、中東を見てみても、ホルムズ海峡一つを十分にコントロールできていない状況であり、戦争で何を達成するのかという目標すら、明確に設定できていません。
また、軍事力を評価する基準も変化してきています。アメリカはいま、数百万円で作れるドローンを数億円かけて作ったミサイルで撃ち落とし、そのミサイルの在庫を消耗している状態です。
冷戦後の米軍には、「量ではなく質で勝つ」という発想がありました。高度なセンサーやGPS、精密誘導兵器を使えば、大量の爆弾をばらまかなくても、少数の高性能兵器で相手を仕留めることができるという考え方です。
ただし、質の高い兵器は当然高価です。すぐには作れませんし、大量生産にも向いていません。そこを突いてきたのがドローンです。安価なドローンを大量に飛ばし、10機のうち1機が目標に到達すればいい。そうなれば、迎撃する側は安価なドローンに対して、はるかに高価なミサイルを撃ち続けなければならない。
このような非対称な戦いが続き、アメリカが米軍基地を置いている湾岸諸国を守ることができなくなるとなれば、「アメリカが守ってくれる」という前提そのものが揺らぎます。
そう考えると、そもそもアメリカが「世界最強の軍事力を持っている」と言っていいのか、また、世界最強の軍事力を持っていることが覇権なのかと問われれば、そこには大きな疑問符がつきます。
覇権国家はケチでは務まらない
覇権とは、軍事力だけで成立するものではありません。経済力も必要ですし、国際援助などを通じて、「この国についていこう」と他国に思わせるだけの敬意や信頼も必要です。
そのため覇権国家であり続けるためには、非常に大きなコストがかかります。他国に援助をし、世界各地に軍隊を送り、国際機関や制度を支える。そのために自国の資金や人員を持ち出すことが求められるからです。
覇権国家は「ケチ」では務まらない。その振る舞いが“覇権国らしく”なければ、覇権は機能しないのです。
ところが、トランプ大統領の価値観はまったく逆です。彼のように「アメリカはこれだけ世界のためにお金を使っているのに、お前たちはリターンをよこさない」と言ってしまえば、覇権国家としての威厳も尊厳も失い、信頼も得られない。こうなれば、覇権は続きません。
そもそもトランプ氏は、「アメリカがナンバーワンだ」とは言うものの、「覇権」とは言いません。つまりトランプ氏は、覇権国家であることを目指しているわけではないのです。むしろ、「覇権はコスパが悪い」という発想です。
「アメリカは世界一でなければならない」と言っても、その力を使ってどんな世界秩序を作りたいのかについては触れない。世界全体を安定させるというより、「アメリカに忠実な国は味方、反発する国は敵」という極めて単純な基準で世界を見て、その世界観で行動しています。